6月18日(水)に京都駅前のキャンパスプラザにて開催された食品衛生協会の指導員更新講習会に参加し、食品衛生に関する最新の情報と実践的な知識を学びました。本記事では、講習会で得た食品衛生の現状と実践的な衛生管理について、重要な知見をまとめてご報告します。
1. 食品衛生を取り巻く法的枠組み
食品衛生法の体系と最新動向
食品衛生は憲法を頂点とした法体系により厳格に管理されています。
法的階層構造:
- 憲法 → 法律(食品衛生法、食品表示法)→ 政令(食品衛生法施行令)→ 府令・省令(食品衛生法施行規則)
地方自治体も法律の範囲内で独自の条例を制定でき、京都府では公衆衛生やフグに関する条例を設けています。
注目すべき規格基準の設定事例
近年の社会情勢を受けて、新たな規格基準が設定されています:
- 東日本大震災後の放射性物質(平成24年4月1日~)
- 生食用食肉(焼肉チェーン店での食中毒死亡事例を受けて)
- PFAS(有機フッ素化合物)(令和8年から飲料水の規格基準に設定予定)
広域連携の進展
食品流通の広域化に対応するため、以下の取り組みが進んでいます:
- 広域的食中毒事案への対策強化(第21条)
- 自動車営業(キッチンカー)の許可統一
- 令和4年10月:京都府と京都市で協定締結
- 令和6年6月1日:関西広域連合での統一基準開始
2. 食中毒の現状と主要な原因
令和6年の発生状況
全国の状況:
- 事件数:1,037件
- 患者数:14,229名
- 死者:3名(全て自然毒によるもの)
京都府の状況:
- アニサキス、キノコ毒による食中毒:5件
- ノロウイルスによる食中毒:4件
コロナ禍による減少傾向から、令和4年以降は例年通りの水準に回復しています。
主要な食中毒原因と予防策
1. アニサキス
特徴: 2~3cmの白色線虫、海洋魚介類に寄生
予防法:
- 新鮮な魚は速やかに内臓除去
- 60℃で1分以上加熱
- -20℃で24時間以上冷凍
- 目視確認(ブラックライトも有効)
⚠️ 注意: 食酢、塩漬け、醤油、わさびでは死滅しません
2. カンピロバクター
特徴: 鶏肉の約6割に存在、少量で発症
予防法:
- 加熱用表示の鶏肉は生食厳禁
- 中心部まで十分加熱
- 調理器具の使い分け徹底
3. ノロウイルス
発生時期: 冬季(11月~4月)が多いが年間通して発生
予防四原則:
- 持ち込まない: 手洗い、健康管理
- つけない: 適切なタイミングでの手洗い
- やっつける: 85~90℃で90秒以上加熱
- 広げない: 適切な消毒で二次感染防止
4. ウェルシュ菌
特徴: 耐熱性芽胞形成、大量調理での発生リスク高
予防法:
- 作り置き回避
- 急速冷却(小分けして)
- 再加熱時は中心まで十分加熱
5. 自然毒(キノコ・植物)
危険性: 致死率が高い
予防法:
- 確信の持てないキノコ・植物は絶対に摂取しない
- 人にあげたり、もらったりも避ける
3. 実践的な衛生管理
一般的衛生管理(全14項目)
日常的に実施すべき衛生管理として、以下の項目が重要です:
施設の衛生管理(5S実践)
- 整理(Seiri): 不要なものを置かない
- 整頓(Seiton): 必要なものをすぐ取り出せる状態に
- 清掃(Seiso): 日常的な清掃
- 清潔(Seiketsu): 上記3つの状態維持
- 習慣付け(Shukan-zuke): 自然にできるレベルまで定着
食品取扱者の衛生管理
手洗いの重要性:
- 11のステップを2回繰り返し(計1分間)
- 指の間、シワ、爪の間まで徹底
- 足踏み式・センサー式蛇口の使用推奨
健康管理:
- 体調不良時は調理業務従事禁止
- 従業員の健康状態把握
設備・器具の管理
交差汚染防止:
- 加熱前後の食材で調理器具使い分け
- 包丁・まな板の適切な消毒
- 日常的な洗浄・消毒の実施
HACCPに基づく衛生管理
基本的な考え方
一般的な飲食店では「HACCPの考え方に基づいた衛生管理」を実施します。
PDCAサイクルの実践:
- Plan(計画): 衛生管理計画作成
- Do(実行): 計画の実施
- Check(確認): 実行内容の記録
- Act(改善): 継続的な改善
危険温度帯の管理
10℃~60℃が危険温度帯
- 10℃以下で冷却保管
- 60℃以上で加熱・保温
食品のグループ分け
- 第1グループ: 非加熱(刺身、サラダ)
- 第2グループ: 加熱後すぐ提供(焼き魚、揚げ物)
- 第3グループ: 加熱後冷却保管し再加熱(カレー、煮物)
4. 危機管理(クライシスマネジメント)
リスク管理 vs 危機管理
リスク管理: 事故防止のための事前対策 危機管理: 事故発生時の拡大防止と迅速対応
事故発生時の対応手順
- 事実確認: 正確な状況把握
- 役割分担: 明確な責任体制
- 記録作成: 客観的な記録(相手の許可を得て)
- 保健所連絡: 速やかな報告
- 初期対応: 傾聴と謝罪から開始
- 原因究明: 慎重な判断
- 証拠保全: 苦情品の適切な保管
ノロウイルス汚染時の対処
嘔吐物処理:
- 半径2メートルが汚染範囲
- 塩素系漂白剤で不活化
- アルコール消毒は効果なし
- 手袋・マスク着用必須
5. まとめと今後の課題
記録の重要性
日常の衛生管理記録は、事故発生時の重要な証拠となります。「やっている」だけでなく「記録している」ことが必須です。
継続的な改善
衛生管理は一度実施すれば終わりではありません。現場の状況に合わせた継続的な改善が求められます。
指導員の役割
食品衛生指導員は、事業者と保健所の橋渡し役として、日常的に気軽に相談できる関係構築が重要です。
おわりに
食中毒予防期間の開始を控え、夏休み期間中の客数増加も予想される中、改めて衛生管理の徹底が求められています。本講習会で学んだ知識を実践し、安全・安心な食品提供に努めてまいります。
消費者への普及啓発と併せて、各店舗での衛生管理強化にご協力いただけますよう、引き続きよろしくお願いいたします。
※本記事は食品衛生協会指導員更新講習会の内容に基づいて作成されています。詳細については各自治体の保健所にお問い合わせください。