キッチンカーや露店で食品を提供するには、食品衛生法に基づく営業許可が欠かせません。本記事では、乙訓保健所の担当者による解説をもとに、車両やタンク容量の基準、露店ならではの制限、HACCPへの対応、許可取得までの流れをまとめました。開業を考えている方はもちろん、すでに営業中の方も基準の再確認にお役立てください。
背景・前提知識
このガイドは、長岡京市商工会が開催した「飲食業部会セミナー」の内容をもとに構成しています。講師は乙訓保健所で衛生管理を担当する職員です。想定読者は、キッチンカーや露店での飲食業をこれから始めたい方、すでに営業していて最新基準を確認したい方です。
①なぜ営業許可が必要なのか
食品衛生法は、飲食物を調理・販売する事業者に保健所の営業許可を義務付けています。対象となる業種は32業種あり、飲食店営業もその一つです。固定店舗、キッチンカー、露店のいずれでも、例外なく許可が必要です。
筆者注: 「数日間だけのイベントだから」「知人の敷地内だから」という理由は、許可不要の根拠にはなりません。無許可営業が発覚すると、食中毒が起きたときの責任問題に加え、事業の継続自体が難しくなります。
筆者注: すでに実店舗で「飲食店営業許可」を取得している事業者でも、油断はできません。営業許可は事業者単位ではなく施設単位で交付されるため、実店舗とは別に、キッチンカーや露店それぞれについて改めて許可(または届出)を取得する必要があります。実店舗の許可があるからといって、その車両や出店で調理・販売してよいことにはなりません。
②キッチンカー(自動車営業)の施設基準
キッチンカーは、車両に調理設備を搭載して行う営業形態です。車両自体が「厨房」として認められるため、いくつかの基準を満たす必要があります。
車両の基本構造
密閉性・車内での調理・換気と照明の3点が主な基準です(下図参照)。

手洗い設備のルール(令和3年改正対応)
令和3年の法改正により、ひねるタイプの蛇口は不可となりました。レバー式(肘操作)、センサー式、足踏み式のいずれかが必要です。
給排水タンク容量と提供メニューの関係
給排水タンクの容量は、扱えるメニューや調理工程を大きく左右します。
| タンク容量 | 主な条件 | 調理例 |
|---|---|---|
| 40L以上 | 単一工程・1品目のみ | 揚げるだけの唐揚げ、焼くだけのステーキ |
| 80L以上 | 2工程まで(複数品目可) | ご飯にカレーをかける、具材を混ぜて焼く |
| 200L以上 | 3工程以上・非加熱食品も可 | 生野菜のカット・盛り付け、刺身、複雑な仕込み |
筆者注: 軽自動車では200Lの給水・排水タンクを両方積むのが物理的に難しいため、サラダ付き弁当のような複雑な調理は事実上難しくなります。
③露店営業の施設基準
露店営業は、その都度組み立て・解体を行う出店形態です。イベント時のみの出店などが該当します。
露店の施設要件
- 構造:屋根があり、三方をシートなどで囲うこと
- 仕切り:前面にカウンターを置き、調理エリアと客席を分けること
- 洗浄設備:40L以上の給排水タンクが必要。手洗い用と器具洗浄用のシンクは兼用可能(キッチンカーとの違い)
調理の制限(直前加熱の原則)
- 提供直前の加熱調理に限られる
- 現場での野菜カットや下味付けは禁止(固定施設で済ませておく)
- 例外:かき氷やアイスクリームは、加熱なしでの提供が認められる
④HACCPに基づく衛生管理
現在、規模を問わずすべての食品事業者に、HACCP(危害要因分析に基づく衛生管理手法)に沿った衛生管理が義務付けられています。
HACCPとは
「完成品を検査する」管理から、「工程のどこに危険があるかを見つけて重点管理する」考え方への転換です。
実施すべき4つのステップ

⑤営業許可取得までの流れ
スムーズに開業するための手順は、事前相談・食品衛生責任者の設置・申請と検査の3ステップです(下図参照)。

事前相談
車両やテントを揃える前の相談が、その後の手戻りを防ぎます。
食品衛生責任者の設置
1施設につき1名必要で、店舗の責任者との兼任は原則できません。
申請と検査
書類提出と実物検査を経て、有効期間5年間の許可が交付されます。
⑥知っておきたい地域ルールと保険
営業可能エリア
京都府内の保健所で取得した許可は京都府全域で有効です。ただし大阪府など他府県で営業する場合は、その府県で別途許可申請が必要です。

模擬店との違い
自治会の祭りなど非営利・単発の出店は「模擬店」として届出で済む場合があります。営利目的の出店は必ず営業許可が必要です。
食中毒保険
食中毒事故に備える保険への加入も検討しましょう。出店先から加入を条件とされることもあります。
まとめ・実務への活かし方
- 提供したいメニューと調理工程を書き出し、必要なタンク容量(40L/80L/200L)を確認する
- 手洗い設備が非接触型(レバー式・センサー式・足踏み式)になっているか確認する
- 開業前に管轄の保健所へ事前相談する
- 食品衛生責任者を1施設につき1名配置する
- HACCPの衛生管理計画を作成し、記録を習慣化する
- 他府県での出店予定がある場合は、その府県での許可申請も忘れずに行う
- 食中毒保険への加入を検討する
用語集(五十音順)
- 営業許可:食品衛生法に基づき、食品の調理・販売を行う事業者が保健所から取得する許可
- 営業届出:営業許可の対象外の業種について、事業者の状況把握のために設けられた届出制度
- キッチンカー(自動車による営業):車両に調理設備を搭載して移動しながら行う営業形態
- 食品衛生責任者:施設ごとに配置が義務付けられる、衛生管理の責任を負う担当者
- HACCP(ハサップ):危害要因分析に基づく衛生管理手法。工程ごとに危険を洗い出し、重点的に管理する考え方
- 非接触型水栓:手で直接触れずに水を出せる蛇口。レバー式・センサー式・足踏み式など
- 模擬店:非営利・単発で行われる出店形態。条件を満たせば届出のみで済む場合がある
- 露店営業:その都度組み立て・解体を行う出店形態。イベント時の出店などが該当する
出典・メタ情報
- セミナー名:飲食業部会セミナー(キッチンカー・露店営業の食品衛生基準について)
- 開催日:令和8年7月22日
- 主催:長岡京市商工会飲食業部会
- 講師:乙訓保健所 衛生管理課 担当者
本記事は情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。実際の申請にあたっては、必ず管轄の保健所へ最新の基準をご確認ください。


